2023.05.11

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中小企業の経営改善・事業再生 その3

こんにちは、中小企業診断士の木戸です。全3回の中小企業の経営改善・事業再生シリーズの最終回です。今回は、具体的な経営改善の事例をご紹介します。

3.具体的な経営改善の例

(1)製缶板金加工業の事例

年商規模を大きく超える過大な設備投資や無計画な事業承継などにより、経営が不安定となり、資金繰りが非常に厳しい状況でした。

金融機関への返済は遅れることなく行っていましたが、ご相談を受けた時には「今月末の支払いが厳しい」という状況でしたので、当日中にメインバンクの担当者へ相談し、早急なリスケジュールにも応じていただけました。

その後、経営改善計画を代表者と何度も打ち合わせを行い、約3カ月かけて作成し、バンクミーティングにより、計画説明とリスケジュールの期間延長を依頼しました。

計画策定後、代表者が中心となって徹底した固定費の削減、生産性向上や受注価格の見直しによる利益率の改善、そして自社HPでの販路開拓や既存取引先への営業によって売上高を増加させたことで、資金繰りは劇的に改善され、十分に利益計上できるようになりました。

事業承継も問題なく進み、金融機関への返済も間もなく開始できる状況まで経営改善が進んでいます。

まだまだ経営改善の道中ですが、経営改善のステップを忠実に実行した経営改善の例だと言えます。

 

(2)食品卸売業の事例

市場規模が年々縮小している分野であり、業績は長期的に低迷していたため、借入金の返済を新たな借入金で返済していました。

売上高が減少する中で、借入金が増加していたため、年商対比での借入金が非常に過大となっており、金融機関からの追加融資を受けることが出来なくなっていました。

年商1億円超ですが、預金残高は数十万円であり、資金繰りが非常に切迫していました。この事例も当月から金融機関に対してリスケジュールの交渉を行い、経営改善計画書を作成しました。

売上高が減少している中で仕入高は変わっておらず、年々在庫・冷凍保管料が増加し、利益率や資金繰りを圧迫していたことから、真っ先に在庫の圧縮を行いました。

仕入を抑制し、既存の在庫を販売することを約半年続けると大幅に在庫を削減でき、冷凍保管料も減少し、少額ですが利益計上できるようになりました。

この事例も経営改善のステップに従って経営改善を実行している例です。

いまだ、利益率の改善や売上高の増加は十分に行えていない状況ですが、預金残高も月商1か月分程度を確保できており、資金繰りは大幅に改善しています。

4.専門家へは早めに相談を

まずは自分でやってみてダメなら専門家へ相談することも悪くはないのですが、後からご相談をいただいたときには手遅れとなることも少なくありません。

「あと数か月早く相談を受けていれば、もっといい選択肢があったのに」というケースは多くありますので、少しでも迷われたときなどは専門家へ相談されることをお勧めします。

2023.05.10

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中小企業の経営改善・事業再生 その2

こんにちは、中小企業診断士の木戸です。前回の中小企業の経営改善・事業再生その1に続いて、3回シリーズの2回目です。

2.経営改善のステップ

経営改善・事業再生は、収益性の改善、金融機関へのリスケジュールの申込、資金繰りの改善などを行うのですが、これには明確な手順があります。

経営を改善するには、固定費の削減、利益率の改善、売上高の増加の3つが必要であり、この順番を守ることが重要です。

固定費が高く、収益性が低い赤字体質の状態で売上高の増加を急ぐと赤字幅が拡大し、資金繰りも更に悪化するケースは少なくありません。

まずは、固定費(役員報酬、家賃など定期契約、広告宣伝費、交通費、交際費、雑費など)や利益率(=粗利益率。仕入や外注費など)の見直しや改善を行い、ぜい肉をそぎ落とし、筋肉質となった状態で売上高の増加を目指します。

借入金の返済は固定費ではないのですが、毎月の支出を見直す必要がある場合には、金融機関に対して、元金返済猶予などのリスケジュールを依頼します。

必ずしも「経営改善・事業再生=リスケジュール」ではないのです。

返済を猶予しても先延ばしをしているだけですので、いずれ返さなければなりません。

しかし、経営改善は、固定費削減のように直ぐに効果が出るものもあれば、利益率改善や売上高増加など取り組んでから結果が出るまでに相当期間を要するものもあります。

固定費削減は一時的な改善であり、中長期的には利益率改善や売上高増加が不可欠です。

そのため、経営改善・事業再生を進めるためには、定期的なモニタリングと見直し、軌道修正が必要です。

計画通りに進んでいない原因や資金繰りの変化、取引状況などをリアルタイムで確認することで、経営改善・事業再生を進めていきます。

次回では、経営改善の具体的な事例を2案件ご紹介したいと思います。

2023.05.09

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中小企業の経営改善・事業再生 その1

こんにちは、中小企業診断士の木戸です。業種や規模、経営状態によって、多少の違いはありますが、経営改善・事業再生の考え方、ステップは共通する部分が多くあります。そこで、中小企業の経営改善・事業再生について、3回シリーズで、投稿いたします。

1.経営改善・事業再生とは

2020年からの新型コロナウイルス感染症の影響で、業種やエリア、企業規模を問わず多くの中小企業が経営に深刻なダメージを受けています。

特に新型コロナウイルス感染症の感染拡大以前から、「財務状況が悪い」、「資金繰りがタイトであった」、「利益率が低い又は赤字であった」企業は、より深刻な状況であると思います。

そのため、今後は新規融資を受けるのではなく、既存融資の集約やリスケジュールにより、毎月の返済額を圧縮し、資金繰りの改善が必要な企業が増えると当時から予測しており、既に多くの再生案件が増えています。

この借入金の集約やリスケジュール時および社内での経営改善のために経営改善計画を作成することをお勧めするのですが、「経営改善」や「事業再生」という似たシーンで使われる言葉があります。

「経営改善」や「事業再生」について、下記のイメージを持っていただけると良いかと思います。

 

 

それぞれを書面に落とし込んだものが「経営改善計画書」や「事業再生計画書」です。

経営改善計画書の作成は、「経営改善計画策定支援事業」という国の助成金を活用することができます。

※詳細についてはリンク先をご参照ください。(中小企業庁HP「経営改善計画策定支援事業(通称405事業)」

経営改善と事業再生に共通することは、スピード感と適切な手順を踏むことです。

次回は、経営改善のステップについて記載します。

2023.04.19

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資金繰り相談の増加について

中小企業診断士の長尾です。最近のコンサルティング現場で感じることです。
予想した通りと申しますか、資金繰りの相談がかなりのペースで増加してきています。

相談に来られる企業様の多くは新型コロナ関連の融資もすべて受けたが、業況が改善するどころか悪化する一方で融資の話は全て断られています。金融機関が支援してくれないことに対して不満や愚痴を言っていても仕方ありません。仮に今、融資を受けることができたとしても数か月後にはまた同じ問題に直面します。

経営者がすべきことは金融機関に依存するのではなく、自分が中心となって道を切り拓くという強いリーダーシップを発揮して経営改善に臨むことです。

そして、経営改善を行う術を身に付けることです。

私なら最初に支出を減らします。具体的には以下の2つを行います。

(1)固定費の削減、不採算事業の撤退

遅らせることのできる支払いを遅らせる(入金サイトを早めることも同時に)

1.固定費の削減、不採算事業の撤退

固定費や不採算事業の中には経営者の思い入れやこだわりがあって、なかなか踏み込むことができない聖域があります。しかし、コロナ禍においては聖域など関係ありません。徹底的な改革を推し進めてください。経費の削減を検討する際には経費を2つに大別することです。1つはプロフィットコスト(利益を生むコスト)、2つ目はロスコスト(利益を生まないコスト)です。プロフィットコストは利益を生むためのコスト、ロスコストは何も生まない経費のことです。決算書や試算表を眺めて、すべての科目をプロフィットコストかロスコストに仕分けしましょう。経費の総額が変わらなくとも、ロスコストを削減してプロフィットコストに充当することで利益が伸びる場合もあります。

2.支払いを遅らせる

仕入サイトの変更や金融機関の返済条件の変更を行い、キャッシュアウトを少なくする、遅らせることです。特に金融機関への返済ですが、資金調達ができなくなった場合はこれまで通り返済するのではなく、返済条件の変更を行いましょう。借りることができないのに今返すのは得策ではありません。これにより単月で数百万から数千万の効果があります。社会保険や税金も当局と相談して納付のタイミングを交渉しましょう。

 

このように、まずは赤字や資金の流出を防ぐことに全神経を使い、資金繰りの目途を立てることから経営改善をスタートさせましょう。それから利益率の改善や売上アップに取り組むことが正しい順番です。

自社の経営を見つめなおし、金融機関の依存しない経営状況にもっていく不退転の覚悟が求められていると私は考えます。

2023.04.19

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売上アップの考え方

中小企業診断士の長尾です。私は経営コンサルタントとして日々業務にあたっていますが、一方で経営者でもあります。経営者としては自社の業績アップや組織の構築などに取り組んでいます。
中小企業診断士として経営コンサルティング業務を行なっている以上、戦略的に事業の拡大を行なっています。特に私はマーケティングの分野が好きなので、このジャンルの本をよく読みます。私が師事しているのはジェイ・エイブラハムというアメリカのマーケッターです。ジェイの教えはセミナー等でもよく取り上げられるのでご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、大企業ではなく中小企業でも取り組めることがたくさんありますので、実践的で参考になることばかりです。
特に私がジェイのマーケット理論を勉強して、意識しているのはパルテノン戦略です。
パルテノン戦略とは「集客するチャネルを複数持ち、経営を安定させる(売上を伸ばす)」という考え方です。
製造業に多いのですが売上の80%や90%を1社に依存しているということがあります。また、製造業でなくとも集客チャネルが紹介だけという商売をしている方もいらっしゃると思います。
パルテノン戦略ではとにかく集客の柱を複数持つことが会社経営にとっては非常に重要だということを説いています。紹介だけに依存するのではなく、ホームページ、SNS、口コミ、DM、キーワード広告、など複数の集客チャネルから集客する仕組みを構築することが経営の安定や売上アップにつながるということですね。
このパルテノン戦略の話もそうなのですが、マーケティングの話をさせていただくと、拒否反応を示す経営者が意外と多いです。
「うちの会社には向いてないから」「業界的にSNSは・・・」などと理由をつけます。このようなことを言う経営者に限って、業績が悪化した時に新規開拓を慌てて行うのですが、集客チャネルが1種類であるため、途方もない時間を使ってはみるものの結果が出ないという結末になります。
一度に複数の集客チャネルを構築するのは無理がありますので、1つずつでも構いません。売上に直結するチャネルを増やしていくことに取り組んでください。