2025.09.29

  • 事業再生
  • 資金繰り

黒字倒産のメカニズムを解説「利益は出ているのに倒産する二つの主要な理由」

皆さん、こんにちは。

株式会社フラッグシップ経営の長尾です。

今回は黒字倒産についてです。先日、取引先様とお話ししていまして、黒字倒産についてのメカニズムを説明してほしいとのご依頼を受けました。

そもそも黒字倒産とはどういう事でしょうか。

黒字倒産とは帳簿上は利益(黒字)を出しているにもかかわらず、資金が尽きて倒産してしまう現象のことです。

これは「利益」と「現金(キャッシュ)」の間にズレが生じることで起こり、特に中小企業にとって大きなリスクとなります。

今回は、黒字倒産を引き起こす代表的な二つのメカニズムについて、詳しくご説明いたします。

 

 

1.「入金サイト」と「支払いサイト」の違いによるタイムラグ

企業間の取引では、商品やサービスを提供した(売上を計上した)その場で現金を受け取る即時決済は少なく、一定期間後に代金を受け取る掛取引が一般的です。

この代金の回収期限を入金サイト(または回収サイト)と呼び、反対に仕入れ代金などを支払う期限を支払いサイトと呼びます。

黒字倒産の多くは、この入金サイトと支払いサイトの「ズレ」によって引き起こされます。

例えば、

  • 入金サイトが「月末締め・翌々月末払い」(売上から入金まで最長で約90日)

  • 支払いサイトが「月末締め・翌月末払い」(仕入れから支払いまで最長で約60日)

という取引条件だったとしましょう。

この場合、商品を売ってから現金が入ってくるまでに最大で3ヶ月近くかかりますが、仕入れ代金は1〜2ヶ月後には支払う必要があります。

つまり、お金が出ていく(支払い)タイミングが、お金が入ってくる(入金)タイミングよりも早いのです。

売上が順調に伸び、利益が増えている時期ほど、仕入れも増えます。

その結果、手元に現金がない状態で、先に仕入れの支払期限が到来し、一時的な資金不足に陥ってしまうのです。

帳簿上は黒字でも、目の前の支払いができなければ、会社は倒産せざるを得ません。

 

2.利益よりも「元本返済額」が多い場合の資金流出

二つ目のメカニズムは、会計上の利益と、現金の減少額が一致しないという点にあります。

特に、金融機関からの借入金の元本返済が、このズレの大きな原因となります。

会社の利益を計算する損益計算書(P/L)では、借入金の「利息」は費用として計上されますが、「元本」の返済は費用とは見なされません。

元本返済は、バランスシート(貸借対照表)上で負債が減少する処理となり、利益の計算には影響しないからです。

利益が出ていても、それとは別に毎月の借入元本返済分だけ、現金が大きく流出していきます。

例えば、毎月50万円の利益が出ている会社でも、銀行への元本返済が毎月80万円ある場合、差し引きで毎月30万円の現金が会社から出ていってしまうことになります。

この状態が続けば、いずれ手元の現金は底をつき、たとえ黒字であっても、人件費や家賃、仕入れ代金などの支払いができなくなり、倒産に追い込まれてしまうのです。

 

 

黒字倒産を防ぐためには、帳簿上の利益だけでなく、このキャッシュフロー(現金の流れ)を常に把握し、特に「入金と支払いのタイミング」と「借入金の返済計画」を慎重に管理することが極めて重要となります。

当たり前と言えば当たり前の話ですが、帳簿だけ(特に損益計算書だけ)見ていても、メカニズムは黒字倒産の原因は解明できないですね。

それではまた次回です。

2025.08.31

  • 経営改善
  • 経営者の姿勢

売上総利益率を向上させる切り口

皆様、こんにちは。フラッグシップ経営代表、中小企業診断士の長尾です。

 

「会社は儲かっているはずなのに、なぜか手元にお金が残らない」

「銀行からの借入が増えるばかりで、資金繰りが苦しい」

 

多くの経営者が、このような悩みを抱えています。売上が上がれば会社は成長する、と信じて日々の営業活動に奔走していることでしょう。

しかし、その努力が報われず、慢性的な赤字や資金繰りの悪化に苦しんでいるケースは少なくありません。

 

危機感から、人件費や家賃といった固定費の削減には多くの経営者が取り組んでいます。

もちろん固定費の削減は重要ですが、それだけでは根本的な解決には至りません。

なぜなら、多くの会社の赤字の原因は、もう一つの重要な利益である売上総利益、つまり粗利にあるからです。

 

なぜ、粗利の改善が後回しになるのか?

「売上さえ上がれば粗利も増える」という考えは、ある意味正しいです。

 

しかし、売上を上げるために安易な値引きをしたり、価格競争に巻き込まれてしまったりしていませんか?

 

これでは、売上は増えても粗利率が下がり、結果として粗利額が思うように伸びず、会社全体の利益を圧迫してしまいます。

実は、固定費の削減には限界があります。従業員の給与を下げたり、オフィスを移転したり、とできることは限られます。

 

一方、粗利を改善するための取り組みは、工夫次第で無限の可能性があります。しかし、多くの経営者は、粗利を改善するための具体的な方法がわからず、後回しにしてしまう傾向にあります。

 

粗利改善のための3つの切り口

では、具体的にどのような手を打てば良いのでしょうか。業種特性にもよりますが基本的な3つの考え方をご紹介します。

1. 見積もりの精度を徹底的に高める
「見積もりはざっくりでいい」「他社と比べて安ければ受注できる」と考えていませんか? 適切な粗利を確保するためには、見積もりの精度を徹底的に高めることが不可欠です。

原価計算を甘く見てはいけません。

材料費、外注費はもちろんのこと、人件費や間接費など、あらゆるコストを正確に把握しましょう。さらに、受注後の追加費用や予期せぬトラブルによるコスト増も考慮に入れた、現実的な見積もりを作成することが重要です。

たとえば、製造業であれば、製品ごとの材料費や加工費、外注費を細かく洗い出す。サービス業であれば、作業にかかる時間や人件費を正確に積算する。こうした地道な努力が、適正な粗利を確保する第一歩となります。

 

2. 付加価値を高めて「価格競争」から脱却する
競合他社と同じような商品やサービスを提供していては、価格競争に巻き込まれてしまいます。価格競争に陥ると、粗利率はどんどん低下し、やがては利益を失うことになります。

「価格」ではなく「価値」で選ばれる会社を目指しましょう。そのためには、商品やサービスに付加価値をつけ、他社との差別化を図る必要があります。

独自の強みを明確にする: 「他社にはない技術」「長年の実績」「専門性の高いサービス」など、自社の強みを再確認しましょう。

顧客の課題を解決する: 顧客が本当に求めているものは何か? 顧客の声に耳を傾け、その課題を解決するような新しいサービスや商品を開発しましょう。

品質とサービスを向上させる: 納期を守る、丁寧なアフターフォロー、きめ細やかなサポートなど、顧客満足度を高めることで、価格以上の価値を提供できます。

「御社だからお願いしたい」と言われるような、唯一無二の存在になることが、価格競争から抜け出す最大の戦略です。

 

3. 継続的なコスト見直しと効率化
粗利を増やすためには、売上を増やすだけでなく、原価を下げる努力も必要です。

仕入れ先の見直し: 定期的に複数の仕入れ先から相見積もりを取り、より安価で高品質な材料やサービスを探しましょう。

業務プロセスの効率化: 無駄な作業をなくし、業務を効率化することで、人件費や間接費を削減できます。ITツールの導入や、業務フローの見直しなどを検討してみましょう。

在庫管理の徹底: 過剰な在庫は、保管費用や管理費用を増大させます。適切な在庫量を維持することで、無駄なコストを削減できます。

 

 

これらの取り組みは、短期的な効果だけでなく、長期的に会社の利益体質を改善していく上で不可欠です。

まずは一歩踏み出してみよう。

「うちは特別なことはできない」「どうせやっても変わらない」と諦めていませんか?

経営改善は、一朝一夕で成し遂げられるものではありません。

 

しかし、今日からできることは必ずあります。

 

まずは、自社の粗利率を正確に把握し、どこに改善の余地があるのかを考えてみてください。

 

そして、今回ご紹介した3つの戦略の中から、一つでも良いので実行に移してみましょう。

 

見積もりをより詳細に作成する、顧客の声を聞いて新しいサービスを考えてみる、など小さな一歩から始めることが、赤字体質を脱却し、健全な経営を実現するための大きな力となります。

 

「売上を上げても儲からない」と悩む日々から脱却し、会社をより良い方向へと導くために、売上総利益率の改善に真剣に取り組んでみませんか。

2025.07.23

  • 事業再生
  • 経営改善

赤字から黒字へ!固定費削減と売上アップで会社を立て直す戦略

皆さん、こんにちは。フラッグシップ経営代表、中小企業診断士の長尾です。

今回は固定費削減から売上アップへのシフトについてご説明させていただきたいと思います。

会社の経営において、赤字からの脱却は喫緊の課題です。

多くの経営者がまず着手するのが固定費の削減でしょう。

しかし、固定費削減は確かに有効な手段ではあるものの、それだけでは黒字化には限界があります。

真の経営改善、そして持続的な成長のためには、売上アップへの積極的な取り組みが不可欠です。

 

固定費削減の有効性と限界

固定費とは、売上高の増減にかかわらず発生する費用のことです。

例えば、人件費、地代家賃、減価償却費などがこれにあたります。これらの費用を見直し、削減することは、利益率の改善に直結します。

不要なオフィススペースの縮小、業務効率化による人員配置の最適化、リース料金の見直しなど、様々な角度から固定費削減に取り組むことができます。

しかし、固定費削減には明確な限界があります。

なぜなら、会社を運営するために必要最低限の固定費は必ず存在するからです。

例えば、従業員をゼロにするわけにはいきませんし、事業を行うための拠点も必要です。

固定費を削減しすぎると、サービスの質が低下したり、事業活動そのものが立ち行かなくなったりするリスクもあります。

つまり、固定費削減はあくまで一時的な、あるいは部分的な改善策であり、これだけで永続的な黒字経営を築くことは難しいのです。

 

売上アップこそが永続的な黒字化の鍵

固定費削減の限界が見えてきたら、次に目を向けるべきは売上アップです。売上を増やすことは、会社の成長と発展に直結する最も重要な要素と言えるでしょう。単に赤字を解消するだけでなく、将来の投資や事業拡大のための原資を生み出すためにも、売上アップへの戦略的なアプローチが不可欠です。

売上アップと一口に言っても、その方法は多岐にわたります。ここでは、具体的な売上アップ施策について幅広く検討していきます。

 

1. 値上げ交渉・単価アップ

「値上げ」と聞くと、顧客離れを心配する経営者もいるかもしれません。しかし、適切な値上げは収益改善に非常に効果的です。自社の製品やサービスの価値を明確に伝え、顧客に納得してもらえるような値上げ交渉を行うことが重要です。例えば、提供するサービス内容の拡充、品質の向上、サポート体制の強化などを通じて、顧客が感じる価値を高めることで、単価アップを図ることができます。また、既存のサービスにオプションを追加したり、上位プランを設定したりすることで、平均単価アップを狙うことも可能です。

 

2. 既存顧客の深耕(クロスセル・アップセル)

新規顧客の獲得には多大なコストと労力がかかります。それに対し、すでに取引のある既存顧客からの売上を伸ばすことは、効率的な売上アップに繋がります。

  • クロスセル: 顧客が購入した製品やサービスに関連する別の製品やサービスを提案することです。例えば、プリンターを購入した顧客にインクや用紙を勧める、といったケースが該当します。顧客のニーズを的確に把握し、関連商品を提案することで、客単価を向上させることができます。

  • アップセル: 顧客が現在利用している製品やサービスよりも、上位の製品やサービスへの移行を促すことです。例えば、ベーシックプランの利用者にプレミアムプランを提案する、といったケースです。上位プランのメリットや付加価値を明確に伝え、顧客にとってより良い選択肢であることをアピールすることで、顧客単価の向上を図ります。

既存顧客との良好な関係を維持し、信頼関係を深めることで、リピート購入や長期的な取引に繋がり、安定した売上を確保できます。

 

3. 新規開拓営業

新たな市場や顧客層にアプローチする新規開拓営業は、事業規模を拡大するために不可欠です。これまで接点のなかった企業や個人に対し、自社の製品やサービスの魅力を積極的に発信し、顧客になってもらうための活動です。

ターゲット顧客の明確化、効果的なマーケティング戦略の立案、営業担当者の育成などが成功の鍵となります。

オンライン・オフライン問わず、多様なチャネルを活用し、見込み顧客の獲得から商談、契約へと繋げる一連のプロセスを強化していく必要があります。

 

4. 新商品・新サービス開発

市場の変化や顧客ニーズの多様化に対応するためには、常に新商品や新サービスの開発に力を入れることも重要です。

既存の製品やサービスの改善に加えて、全く新しい価値を提供する製品やサービスを生み出すことで、新たな市場を開拓し、大きな売上アップに繋がる可能性があります。

市場調査を綿密に行い、顧客が抱える課題を解決できるような革新的なアイデアを具現化することが求められます。

 

まとめ

赤字からの脱却、そして持続可能な黒字経営を実現するためには、固定費の削減と売上アップの両輪で取り組むことが不可欠です。

固定費削減は短期的な効果をもたらしますが、その効果には限界があります。

一方で、値上げ交渉、既存顧客の深耕、新規開拓営業、新商品開発といった多角的な売上アップ施策は、会社の成長と発展を長期的に支える基盤となります。

自社の状況を正確に把握し、どのようなバランスでこれらの施策を実行していくべきか、戦略的に検討していくことが、赤字脱却への最も確実な道と言えるでしょう。

2025.06.30

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中小企業は課題を絞り、突破口をつくるべき理由

皆さん、こんにちは。

 

フラッグシップ代表、中小企業診断士の長尾です。

 

このゴールデンウイーク明けから経営改善(赤字会社の支援)の仕事が多く、私の案件の95%くらい占めていたかとおもいます。

 

支援したすべての会社で「赤字体質」「過剰債務」「債務超過」「売上の減少が止まらない」「利益率が低い」「資金繰りが厳しい」の状態です。

 

他にも人材育成や人材不足など決算書では分からない問題もあるでしょう。

 

どの問題も複雑に絡み合っており、まさに何から手を付けていいか分からない状況です。

 

しかし、このようなお悩みを持っていることは中小企業では珍しくありません。

 

むしろ、経営資源の限られた中小企業ではごく自然な現象です。

 

開き直るわけではありませんが大企業と比べて使えるリソースが圧倒的に少ないなかで、すべての課題に一斉に取り組もうとすること自体が無理なのです。

 

だからこそ、中小企業経営においては「課題を絞り、一点集中で取り組む」ことが極めて重要です。

 

ポイントは、「その課題を解決すれば、他の多くの課題も一緒に解決される」ような、いわば“てこの原理”が働くレバレッジの高いテーマを選ぶことです。

 

例えば、

 

「新規開拓」に集中すると、売上増加はもちろん、営業力の底上げ、社内の活性化にもつながります。

 

「採用力強化」に注力すれば、人手不足解消だけでなく、組織風土の刷新、サービス品質の安定化にも寄与します。

 

このように、「一石二鳥」あわよくば「一石三鳥」が狙えるテーマに集中することが、限られた経営資源を最大限に活かす鍵になります。

 

また、集中して取り組むためには、経営者自身が迷わないことも重要です。

 

課題は次々と湧いてきます。

 

そのたびに方向性を変えていては、組織も疲弊します。

 

「我々は、今は〇〇に集中する」と社内外に明言し、その旗を振り続ける姿勢が問われます。

 

そして集中の期間を区切り、3ヶ月、6ヶ月と時間を決めてやり切ることで、組織に成果と達成感を残すことができます。

 

中小企業にとって、経営は「やらないことを決める勇気」と「今、取り組むべきことを徹底する集中力」の両立です。

 

課題が山積みだからこそ、優先順位を見極め、“多くの成果につながる一手”に全力を注ぐべきです。

 

 

「集中すれば、道は開ける」

 

このシンプルな原理こそ、資源が限られる中小企業が生き抜き、成長するための鉄則なのです。

 

それでは、また次回です。

 

 

 

2025.04.25

  • 経営改善
  • 資金繰り

会社を守れるのは経営者だけ

こんにちは。中小企業診断士の社内です。

 

今回はご支援に携わっている事業者様から私が学んだことを共有したいと思います。

 

資金繰りに困窮している事業者様で、金融機関様に今月から元本返済のリスケジュールを依頼しなければならなくなりました。

経営者様から一度金融機関様に依頼したところ、

「新規融資を出したばかりなので、せめてあと3か月は返してほしい」と断られてしまいました。

 

こちらの企業の毎月の元本返済額は160万円です。

残りの現預金が600万円を切っているのに、3か月も支払ってしまっては会社が潰れてしまいます。

このような危機に、経営者様から出た言葉は「とても言えそうにない。個人資産を使ってでも3か月分返済したい」でした。

 

元本返済のリスケジュールを行うと毎月の返済負担が軽くなりますが、原則新規融資は受けられなくなります。

個人資産の出番がないことが望ましいですが…

経営状態も芳しくない状態なので、今後のいざというときのために個人資産は取っておくべき手段ではないでしょうか。

今後本当に苦しくなった時に社員様を守るための資金です。

社員様の協力を得て経営を改善していくことはできますが、意思決定は経営者にしかできません。

会社の行く末を決めるのは経営者しかいないのです。

また、会社が立ち行かなくなってしまっては金融機関様にとっても貸し倒れになり困ります。

 

経営者様に考え直していただきました。

その後、経営者様が金融機関様の元へ赴いて直接お話をされ、今月からのリスケジュールを了承していただくことができました。

事情は様々あると思いますので一概には言えませんが、経営者の強い意志で状況は変えられるかもしれません。

 

様々な事業者様からお話を伺っていると、会社を立て直すのはまさに背水の陣だと感じます。

どんなに良い施策があっても、経営者様の強い意志がなければ成し遂げられないでしょう。

 

中小企業診断士 社内 愛里